【判例紹介】「同僚を通じた監視・嫌がらせ」を訴えて40日欠勤——諭旨退職処分は無効・日本ヒューレット・パッカード事件(最二小判平成24年4月27日労判1055号5頁)
2025-05-29
5秒でわかる結論
被害妄想による40日欠勤への諭旨退職処分は無効。日本ヒューレット・パッカード事件(最二小判平成24年4月27日労判1055号5頁)——精神不調にはまず受診勧奨・休職、処分より治療。
従業員が「加害者集団が同僚を通じて自分を監視・嫌がらせしている」と訴えるが事実は確認できない。本人は「問題が解決するまで出勤しない」と宣言して実際に約40日欠勤——懲戒処分できるか。日本ヒューレット・パッカード事件(最二小判平成24年4月27日労判1055号5頁)です。
事案の概要
Xは被害妄想など何らかの精神的な不調により、実際には存在しないにもかかわらず、約3年間にわたり盗聴・盗撮等を通じて加害者集団が職場の同僚らを通じて嫌がらせをしているとの認識を持ち、会社に被害を申告して調査を求め、問題が解決したと判断できない限り出勤しないと予め伝えた上で、有給休暇をすべて取得した後、約40日間欠勤を続けました。会社は就業規則所定の「正当な理由のない無断欠勤」に当たるとして諭旨退職処分を行いました。一審は有効、二審は無効とし、会社が上告しました。
最高裁の判断
- このような精神的な不調のために欠勤を続ける労働者には、不調が解消されない限り欠勤の継続が予想される。
- したがって使用者としては、精神科医による健康診断を実施する(本件就業規則には必要時の臨時健康診断の定めがあった)→その結果に応じて治療を勧め、休職等の処分を検討し、経過を見るなどの対応をとるべき。
- そのような対応をとらず、欠勤理由(被害事実)が存在しないことから直ちに正当な理由のない無断欠勤として諭旨退職処分をするのは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応として適切なものとはいい難い→処分無効(上告棄却)。
経営者への教訓
- 「処分より先に治療」が鉄則。問題行動の背後に精神不調が疑われるとき(被害妄想の申告・明らかに異常な言動)は、懲戒の前に受診勧奨→休職のルートへ。
- 就業規則に受診命令条項(必要時に会社指定医の健診を命じ得る旨)を置く。条項がなくても安全配慮の観点から受診指示が認められる余地はあるが、条項があるほうが格段に明確。
- 受診拒否や休職期間満了後も復職できない場合に、初めて休職期間満了退職/解雇の手続へ——これが裁判所の認める出口。
- 妄想型事案の現場対応(被害内容を肯定も否定もしない・事実の有無を本人と争わない・勤務上の具体的事実を中心に記録する)は当サイトの休職・復職関連記事参照。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2025-05-29)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。