飲み会でのセクハラ発言・誹謗中傷・口裏合わせ——外資金融の懲戒解雇が有効とされた例(東京地判令和8年2月26日)
モルガン・スタンレー・グループ事件(東京地判令和8年2月26日労経速2622号3頁)の判例紹介。飲み会での「今日ヤレるかな」発言と拒否する後輩女性への自宅前までの同行(職場外だがセクハラ該当)、誹謗中傷の繰り返し(報復の意味合い)、口外禁止命令違反と口裏合わせ(労働契約上の調査協力義務違反)による懲戒解雇を有効と判断。2度の書面警告・年俸1750万〜2300万円の職責・反省の欠如が相当性を支えた。経営者への教訓付き。
懲戒解雇は最も重い処分で裁判所の審査は厳格ですが(労契法15条)、本件は有効と判断され請求が全て斥けられました。出典:モルガン・スタンレー・グループ事件・東京地判令和8年2月26日労経速2622号3頁。
事案の概要
- 懲戒事由1:令和3年5月深夜の飲み会で、後輩女性従業員Aについて同僚Bに「Aさん今日ヤレるかな」という趣旨の発言をし、解散後、Aが再三拒否したにもかかわらず自宅マンション入口前まで同行して待機。Aは恐怖を感じ別のタクシーで交際相手宅に避難した。
- 懲戒事由2:その後約1年余り、同僚や上司に対しAの学歴や勤務成績を貶める発言を繰り返し、上司に事実と異なる相談をしてAが叱責される事態を招いた。
- 懲戒事由3:Aの申告を受けた話合いの内容について口外禁止を命じられたのに、同僚らに申告内容を伝え、社内調査で自己に有利な供述をするよう口裏合わせを依頼し、応じなければ不利益が及ぶと示唆した。
原告は過去に2度の書面による厳重注意を受け、再犯時は解雇を含む懲戒処分となる旨警告されていました。会社は自主退職の機会を与えた後、令和5年4月に懲戒解雇を通知(予備的に普通解雇)。
争点と双方の主張
争点は①懲戒解雇の有効性②普通解雇の有効性③中間収入控除④不法行為の成否。原告は、発言はAに向けたものでなくセクハラに当たらない、態様は軽微で懲戒処分歴もないから解雇は無効と主張し、地位確認・月額約191万円の賃金・220万円の損害賠償を請求。会社は、各事由は懲戒解雇事由に該当し、悪質性・2度の警告・反省の欠如から解雇は有効と主張しました。
裁判所の判断——懲戒解雇有効
- 職場外の言動でもセクハラに該当:発言自体が性行為の直接的表現で悪質であり、拒否するAへの同行は意思実現に向けた具体的行為。原告がジュニア・リーダーとして若手を取りまとめ業務を割り振る立場だったこと等から、職場外の言動でも不快な職場環境を作出しAの職務遂行能力に影響するものとして、ハラスメント禁止ポリシーの「セクシャル・ハラスメント」に当たり就業規則違反。
- 誹謗中傷は報復の意味合い:部署内で優位な立場にあり、事由1の後にされたことから、Aが報復と感じるのも無理はなく、職場環境を害する程度は相応に大きい。
- 口裏合わせ=労働契約上の調査協力義務違反:行為規範が社内調査への誠実な協力を義務付けていることから、調査が予想される事項について証拠隠滅行為をしてはならない労働契約上の義務を認定。口外禁止命令違反と併せ、企業秩序を揺るがしかねない悪質な行為と評価。
- 相当性:2度の厳重注意と明確な警告、ハラスメント研修の受講、年俸1,750万円→2,300万円のプロフェッショナル社員としての重い職責、現在まで反省の態度がないこと等から、懲戒処分歴がないことを考慮しても懲戒解雇は客観的に合理的な理由があり社会通念上相当、有効。
経営者への教訓
- 職場外の飲み会での言動も、職務上の関係性と職場環境への影響があれば懲戒対象のセクハラになり得る。規程は職場外をカバーする建付けに。
- 書面による注意・警告の積み重ねが解雇の相当性を支える。口頭注意は再犯時にゼロからのスタートになる。
- 調査時の口外禁止命令と調査協力義務の明文化は、口裏合わせへの独立の懲戒事由を作る。
- 解雇前に自主退職の機会を与える手続的慎重さも有効性判断にプラスに働く。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-09-14)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。