「上の階がうるさい」と入居者からクレーム——大家の義務はどこまでか
騒音クレームは「入居者同士の問題」では済みません。大家の使用収益させる義務と防止義務を認めた裁判例、受忍限度、解除までの実務対応。
「足音で眠れない、大家さん何とかして」——賃貸アパートで最も多い苦情です。「入居者同士の問題です」と返してよいのでしょうか。
大家の義務——使用収益させる義務
賃貸人は賃借人に目的物を使用収益させる義務を負います(民法601条)。住宅なら「住居として平穏に暮らせる状態」の提供が義務の内容であり、騒音問題は必ずしも「入居者同士の問題」では済みません。放置すれば債務不履行になり得ます。
裁判例——大家の防止義務が認められた例
東京地裁平成25年4月17日判決(判例集未登載)は、地下1階のディスコの騒音・振動について、賃貸人に「騒音を防音又は営業時間を短縮する等により防止すべき信義則上の義務」を認め、上階の賃借人への損害賠償を肯定しました。ビル内の他店舗による障害について賃貸人の使用させる義務違反を認めたものとして東京地判平成10年9月30日判例時報1673号111頁もあります。
ただしすべての音ではない——受忍限度
共同住宅では一定の生活音はお互いさまで、受忍限度を超える騒音だけが違法となります。音量・時間帯・頻度・継続性、建物の構造や契約の前提(階下がピアノ教室で看板も出ていた物件につき静かな住環境の提供義務を否定した裁判例もあります)が判断要素です。
大家の実務対応
- ①苦情の記録(日時・内容)②全体への注意喚起(掲示・通知)③発生源特定後の個別注意・警告(書面で痕跡を残す)④悪質・反復なら用法遵守義務違反・信頼関係破壊による契約解除の検討。
- 何もしないのが一番危険です。被害入居者から賃料減額・損害賠償・解約を主張されかねません。
- 賃貸借契約・使用細則に騒音禁止条項と違反時の措置を定めておくのが事前の防衛線です。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-07-12)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。