【裁判例紹介】休職中のバイク・馬券・飲酒は懲戒できるか——マガジンハウス事件(東京地判平成20年3月10日労経速2000号26頁)
2026-07-27
5秒でわかる結論
うつ病休職中のバイク・馬券・飲酒・旅行は懲戒事由に該当しない。マガジンハウス事件(東京地判平成20年3月10日労経速2000号26頁)——問責できるのは主治医の指導に反する行動のみ。
「会社の金で休職しながら遊び歩いている」——経営者の憤りは理解できます。しかし休職中の私生活上の行動のどこまでを問責できるかには、知っておくべき線引きがあります。それを示したのがマガジンハウス事件(東京地判平成20年3月10日労経速2000号26頁)です。
事案の概要
出版社Yの従業員Xはうつ病・不安障害で休職(休職中も賃金全額が支給される制度)。休職期間中、Xはオートバイで頻繁に外出し、ゲームセンターや場外馬券売場に出かけ、飲酒や会合への出席、宿泊を伴う旅行をし、さらに人事上の命令への抗議活動などを行いました。Yはこれらが療養専念に反するとして就業規則上の責任を追及し、懲戒事由該当性が争われました。
裁判所の判断
- 会社が賃金全額を支給しながら私傷病欠勤を認める趣旨は、療養に専念できる環境を経済面で整え療養を支援することにある。従業員は休職中この趣旨を踏まえた生活を送ることが望ましく、趣旨に反した行動には服務規律違反が問われてもやむを得ない。
- しかし、オートバイでの外出、ゲームセンター・場外馬券売場、飲酒・会合、宿泊旅行などは:うつ病や不安障害の性質上、健常人と同様の日常生活を送ることは不可能でないばかりか、療養に資することもあると広く知られている——これらの行動は懲戒事由に該当しない。
- 懲戒事由に該当するのは、主治医の指導に反した行動(人事上の命令への抗議活動等)のみ。
経営者への教訓
- 「休職中=自宅で安静にしているべき」は誤解。精神疾患の療養では、散歩・外出・適度な娯楽がむしろ治療の一部であることが多い。SNSで休職者の外出を見つけて懲戒に動く前に、一度立ち止まること。
- 問責のベースラインは主治医の指導・指示。だからこそ実務では、休職時に主治医の療養方針を把握し、定期報告義務を就業規則に明記し、産業医面談の仕組みを整えることが重要になる。
- 行動と病状が明らかに矛盾する場合(外出不可の診断書なのに長期海外旅行等)も、先に行うのは懲戒ではなく事実調査+医学的確認(主治医照会・産業医意見)。
- 精神不調者への処分はそもそも慎重に(日本ヒューレット・パッカード事件参照——処分の前にまず受診勧奨)。治療優先が日本の裁判所の一貫した立場です。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-07-27)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。