その病気が仕事のせいなら——「私傷病休職」の枠組みは使えず、満了退職もできない
業務上傷病と私傷病休職の区別を解説。労基法19条の解雇制限(療養休業期間+30日)、業務上傷病には私傷病休職満了の自然退職も許されないこと、東芝(うつ病・解雇)事件(最二小判平成26年3月24日労判1094号22頁=メンタル情報の不申告を過失相殺の理由にできない)、労災申請係属中の満了処理のリスク、労基署認定と民事判断の分岐、退職後の労災申請まで。
うつ病で休職中の従業員を就業規則どおり満了退職にしようとしている。しかしそのうつ病の原因が長時間労働や過重な業務なら、結論は全く変わります。それは「業務上」の傷病であり、私傷病休職の枠組み自体が適用できません。
労基法19条——業務上傷病の解雇制限
労働基準法19条は、業務上の負傷・疾病による療養のための休業期間とその後30日間の解雇を原則禁止しています(強行規定)。さらに裁判実務上、私傷病休職満了による自然退職扱いも業務上傷病には許されないと解されています。休職制度は私傷病を前提とする解雇猶予であり、業務上傷病の療養保障は労災保険と19条の領域だからです。
東芝事件——形式は私傷病休職、実質は業務上疾病
東芝(うつ病・解雇)事件では、長時間労働等で発病したうつ病を私傷病休職として処理し満了解雇した事案につき、下級審がうつ病の業務起因性を認め、解雇を労基法19条違反で無効としました。最二小判平成26年3月24日労判1094号22頁は損害賠償の場面で、労働者が精神科通院歴等を会社に申告しなかったことを過失相殺の理由にできないと判示しました。メンタルヘルス情報はプライバシーに属し、会社は申告がなくても労働環境に注意を払い過重な業務を軽減すべきだからです。
区別の実益
- 業務上:労災保険給付+解雇制限(19条)+安全配慮義務違反の損害賠償の可能性。休職満了退職は不可。
- 私傷病:傷病手当金+休職制度。満了時未治癒なら退職・解雇。
労災申請が係属しているのに満了退職を強行し、後に業務上と認定されれば、退職無効+バックペイのリスクは甚大です。会社は満了処理の前に業務起因性の兆候(長時間労働・ハラスメント・労災申請の有無)を必ず確認すべきです。
実務の注意
- 労基署の労災認定と民事裁判の業務起因性判断は別手続で、結論が分かれ得る。
- 会社側は発病前の労働時間記録・業務負荷・ハラスメントの有無を休職開始時点で調査・保全する。
- 従業員側は退職後でも労災申請ができる。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-02-22)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。