様子がおかしい従業員がいる——メンタル不調への会社の正しい対応順序(受診勧奨・休職・労災・記録)
従業員のメンタル不調は安全配慮義務(労契法5条)に直結する経営問題——放置が最大のリスク。①面談・受診勧奨と記録②労働時間・ハラスメントの確認(履行の証拠)③私傷病か労災か(労災なら労基法19条の解雇制限・認定基準は基発0901第2号)④休職発令と規定の確認⑤復職判断(片山組事件)の順に、会社の対応を解説。
遅刻の増加・パフォーマンス低下・席でぼんやり——従業員のメンタル不調は、安全配慮義務(労働契約法5条)に直結する経営問題です。「本人が言ってこないから見なかったことに」が最も危険な選択で、悪化後の休職・労災・訴訟のコストは早期対応の比ではありません。
第1歩:早期把握と受診勧奨
- 上司・人事が兆候に気づいたら、まず面談で状況(体調・業務負荷・睡眠)を確認し、記録を残す——後日の「会社は知りながら放置した」という主張には、この記録で反論することになります。
- 受診勧奨:産業医面談(50人以上の事業場は選任義務)や心療内科・精神科の受診を勧めます。就業規則に受診命令の根拠規定があれば命令も可能。規定がなくても安全配慮義務に基づく合理的指示として肯定した裁判例がありますが、まずは「勧奨」で足りることがほとんどです。
第2歩:原因の確認と記録
- 労働時間:打刻・PCログで長時間労働の有無を確認(月80時間超は面接指導の基準・安衛法66条の8)。客観的把握義務(66条の8の3)はそもそも会社にあります。
- ハラスメントの有無:申告・噂があれば直ちに調査(相談窓口の運用)。
- これらの確認・対応の記録こそ安全配慮義務を履行した証拠です——事後の労災・民事訴訟では「会社は知ってから何をしたか」が勝負になります。
第3歩:私傷病か労災かの分水嶺
| 私傷病ルート(傷病手当金) | 労災ルート(休業補償給付) | |
|---|---|---|
| 前提 | 業務外の傷病 | 業務起因(認定が必要) |
| 金額 | 標準報酬日額の3分の2 | 給付基礎日額の実質8割・非課税 |
| 期間 | 通算1年6か月 | 治癒まで |
| 会社への効果 | 休職制度での処理が可能 | 療養休業中+30日は解雇禁止(労基法19条)・休職期間満了の退職扱いも不可 |
精神障害の労災認定基準は令和5年9月1日基発0901第2号(パワハラ、発病前1か月160時間等の長時間労働などの心理的負荷「強」)。労災申請に会社の同意は不要です。会社ができるのは事実どおりの協力(事業主証明)と、業務起因性の自己検証——長時間労働・ハラスメントの事実の有無が、その後の方針(争うか否か・民事賠償リスクの評価)を決めます。
第4歩:休職発令
私傷病ルートなら就業規則に基づき休職を発令します。自社規定の確認ポイント:休職期間(勤続年数別)・期間中の賃金・期間満了の効果(自動退職か解雇か)。規定の不備(休職制度がない・満了効果が不明確)は、事が起きてから気づく典型的な悲劇です——今すぐ整備を。
第5歩:復職判断
- 主治医の「復職可」診断書=直ちに復職させる義務、ではありません——ただし無視もできません。産業医意見・会社指定医の受診(就業規則に根拠があれば)を併用して判断します。
- 判断基準は片山組事件(最一小判平成10年4月9日労判736号15頁)——原職が無理でも現実に配置可能な他の業務の検討が必要です。
- 復職後の軽減勤務・試し出勤は、事前の制度化があって初めて円滑に運用できます。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-07-04)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。