相手が財産を隠しそうだ——訴訟の前に「仮差押え」で凍結する(民事保全)
2026-02-27
5秒でわかる結論
判決まで1〜2年、その間に財産を隠される——だから訴訟前に仮差押え(民事保全法20条)・仮処分(23条)。相手に知られず数日〜2週間で凍結でき、和解を引き出す力も大きい。担保金は債権額の1〜3割。振込先口座の記録が平時の備え。
売掛金800万円を払ってもらえず、相手は事務所を売り、預金を移しているらしい——今から訴えても、判決が出る頃には財産は空っぽです。日本法がそのために用意している武器が民事保全(民事保全法)です。
2種類の保全
- 仮差押え:金銭債権(売掛金・貸金・未払の工事代金)を保全するため、相手の財産——銀行預金・不動産・第三者への債権を凍結します(民事保全法20条)。仮差押えされた預金は引き出せず、不動産は名義変更できません。
- 仮処分:金銭以外——例えば不動産の処分禁止の仮処分(所有権を争い移転登記を求めるとき)、占有移転禁止の仮処分(明渡請求のとき。これがないと判決後に占有者をすり替えられ、強制執行が空振りします)、営業秘密侵害や競業の差止めの仮処分です(民事保全法23条)。
なぜ効くのか:速さと密行性
- 速い:正式な法廷は開かれず、書面+裁判官との面談(債権者面接)で審理されます。資料が揃っていれば、申立てから数日〜2週間程度で発令される例も多いです。
- 密行性:審理は相手に知らされず、発令・執行の後に初めて相手が知ります——財産隠しの前に凍結が間に合う。これが本案訴訟との最大の違いです。
- 心理的効果:メインバンクの口座が凍れば相手の資金繰りは直撃を受け、この段階で和解の話が来る事案が少なくありません。
代償:疎明と担保金
- 2つの疎明(一応の証明)が必要です:①被保全権利(債権の存在——契約書・請求書・取引記録)、②保全の必要性(凍結しなければ回収できない——相手が財産を処分している兆候など)(民事保全法13条)。
- 担保金(供託):裁判所が供託を命じ、相場はおおむね債権額・目的物の価額の1〜3割です(事案によります)。仮差押えが誤りだった場合の相手の損害の担保で、事件終了後に取り戻せます。
- 保全はゴールではありません:発令後、相手の申立てにより裁判所から本案訴訟の提起を命じられることがあります(起訴命令——民事保全法37条)。本案を戦う準備を整えてから動くべきです。
経営者の実戦ポイント
- 平時から財産情報を集めておく:取引開始時に相手の取引銀行(請求書の振込先口座!)・不動産・主要顧客を記録しておきましょう——仮差押えは対象財産を自分で特定する必要があり、直前に調べるのは非常に困難です。
- 相手が個人(元従業員の横領・貸金)でも同じように使えます。
- 逆に自社が仮差押えを受けたら:保全異議の申立てや供託による解除(民事保全法22条の仮差押解放金)があります。直ちに弁護士へ——放置すれば資金繰りが直接止まります。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-02-27)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。