社員が社用車で事故——修理費を全額請求はできません
社用車事故の修理費を社員に全額請求はできません。最高裁(茨城石炭商事事件・最一小判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁)は4分の1のみ認容。賠償予定の禁止と保険整備の実務。
社員が社用車で事故を起こし修理費80万円。「運転した本人が払うべき」——日本法ではその直感は誤りです。
最高裁——求償は「損害の公平な分担」で制限される
茨城石炭商事事件(最判昭和51年7月8日労働判例275号12頁)は、使用者が労働者の業務執行により損害を被った場合でも、信義則上、損害の公平な分担という見地から相当と認められる限度でしか賠償請求・求償できないとしました。使用者は労働者の労働で利益を上げており、事故リスクは事業経営のコストだからです(報償責任・危険責任の考え方)。
同事件で認められた求償は損害の4分の1。その後の裁判例も一部にとどめるものが多く、軽過失ならゼロもあり得ます。高い割合に振れるのは重過失・故意(飲酒運転、私的利用中の事故等)の場合です。
考慮される要素
- 過失の程度/業務の性質(事故リスクの高い業務か)
- 会社のリスク管理(車両保険・対人対物保険の加入の有無)
- 労働条件(賃金水準・勤務状況)
保険未加入は労働者の負担を減らす方向で考慮されがちです。保険料を惜しむと、結局会社が損害を呑むことになります。
事前の約定は無効
「事故時は全額賠償」という条項や誓約書は労基法16条(賠償予定の禁止)に反し無効です。現実に生じた損害の賠償請求自体は16条で禁止されませんが、公平分担の制限は受けます。賃金からの一方的控除も全額払い原則(労基法24条)違反です。
実務の正解
保険の整備、安全運転管理(点呼・運転記録)、事故時は過失の程度に応じた個別協議——これが日本式の正解です。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-08-04)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。