【裁判例特集】令和以降「本採用拒否が有効」とされた裁判例5選——試用期間の解雇が通る共通点
令和以降に本採用拒否が「有効」とされた裁判例3選。ヤマダコーポレーション事件(東京地判令和元年9月18日労経速2405号3頁)・日本オラクル事件(東京地判令和3年11月12日労経速2478号18頁)・柏書房事件(さいたま地判令和4年4月19日労経速2494号24頁)ほか5件——通る事案の共通点は期待水準の明確化+具体的記録+指導後も改善なし。
当サイトでは三菱樹脂事件以来の「試用期間の解雇は簡単ではない」という判例群を紹介してきました。では、近年実際に有効とされたのはどんな事案か。令和元年以降に本採用拒否・試用期間中の解雇が有効と認められた裁判例を5件整理します。
1 ヤマダコーポレーション事件——部下への威迫・取引先トラブルの中途採用管理職
【判決出処】東京地判令和元年9月18日労経速2405号3頁
情報システム管理者(係長級)として中途採用されたXは、3か月の試用期間中に、部下への威迫的言動、取引先とのトラブル、データの誤消去等の業務上のミスがありました。裁判所は協調性の欠如や配慮を欠いた言動等を総合考慮し、解雇は解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり社会通念上相当——試用期間中の解雇は有効としました。
ポイント:管理職の中途採用では「部下・取引先と正常に協働できること」自体が期待される中核能力。威迫的言動やトラブルの事実が一件ずつ記録されていたことが勝負を決めています。
2 日本オラクル事件——試用期間内の確定的な意思表示なら効力発生日は満了後でもよい
【判決出処】東京地判令和3年11月12日労経速2478号18頁
外資系IT企業の中途採用社員(試用期間3か月)の本採用拒否で、解雇の効力発生日が試用期間満了の約2か月後だった事案。裁判所は、試用期間内に留保解約権が確定的に行使(解雇予告通知)されていれば、効力発生日が満了後でも留保解約権の行使として扱われるとし、本採用拒否を有効として請求を棄却しました。
ポイント:解雇予告(労基法20条・30日)との関係で、満了日の30日以上前に予告しなければ効力発生日は満了後にずれ込みます。本判決はこの実務上よくある時間差が致命傷にならないことを確認——ただし意思表示自体は試用期間内に確定的に行う必要があります。
3 柏書房事件——経験者採用の営業職、指示違反+注意後も改善なし
【判決出処】さいたま地判令和4年4月19日労経速2494号24頁
経験者として出版社に採用された契約社員X(営業職)は、書店担当者の不在を確認せず訪問する、上司の指示に反して作業を進めるなどの業務命令違反が複数あり、注意後も改善せず、その後体調不良を理由に欠勤するようになりました。裁判所は、勤務態度・業務成績・勤怠等からXが小規模出版社の営業職としての適性を有するとは認め難く、本採用拒絶は「やむを得ない事由」に該当する——有効としました。あわせて主張されたパワハラ(上司の叱責)も棄却されています。
ポイント:経験者採用では即戦力としての期待水準を新卒より高く設定できる。「指示→違反→注意→なお改善なし」のサイクルが具体的に記録されていたことが裁判所の心証を決めました。
4 MAIN SOURCE事件——物損事故+日報指導を拒む製造職
【判決出処】東京地判令和元年12月20日(判例秘書登載)
キャンピングカー製造販売会社の製造職従業員(試用期間4か月)が、期間中に物損事故を起こし、作業日報の作成指導にも拒否的な態度をとった事案。裁判所は、試用期間満了まで残り約2週間で、指導を続けても改善が見込み難い等の事情を考慮し、社員適格性を欠くとして本採用を拒否した会社の判断は不合理でない——有効としました。
ポイント:残り期間がわずかで改善可能性が客観的に低い場合、「指導が足りない」という反論は通りにくくなる。前提として、それまでの指導経過の記録があることです。
5 東京高裁令和5年判決——有期契約+試用期間の「二重のハードル」を越えた例
【判決出処】東京高判令和5年4月5日(公刊判例集未登載)
建具工事業の小規模会社(従業員8〜10人)が、1年の有期契約(更新制)+当初3か月の試用期間で採用した事務職員を解雇した事案。事務経験3年と履歴書に記載していたにもかかわらず、小口精算帳簿への入力や見積書作成といった比較的単純な文書作成業務で誤記・記入漏れ・二重計上を繰り返し、上司の指導後も改善せず、試用開始から約2か月10日で解雇されました。
裁判所は、有期契約の試用期間中の解雇には、留保解約権行使としての合理性・相当性に加え、労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」(試用期間の趣旨に鑑み若干緩やかに判断)が必要としたうえで、本件はいずれの基準も満たす——解雇有効としました。
ポイント:有期契約で採用して試用期間を付けると、解雇は「二重のハードル」になる。それでも、単純作業での大量のミス+指導後も改善なしという具体的記録があれば解雇を支え得ます。
有効例の共通点——通すために何を準備するか
- 期待水準の明確化:中途・経験者採用では、ポジションと期待される職責を採用時に文書化(職務内容記載書・採用通知)。新卒より高い要求水準が認められます。
- 問題行動の具体的記録:日付・場面・言動・影響。「協調性がない」という抽象評価ではなく、一件ずつの具体的事実が武器になります。
- 注意・指導と改善機会:何を指導し、本人がどう反応し、結果どうだったか。有効例はすべてこのサイクルを備えています。
- 時期の管理:意思表示は試用期間内に確定的に(日本オラクル事件)。30日の解雇予告を考えると、試用期間満了の1か月前が判断のデッドラインです。
- 反面教材も参照:期間途中で観察を打ち切る解雇はより高いハードル(ニュース証券事件・東京高判平成21年9月15日労判991号153頁)、PIPを実施しても無効になり得る(ブルームバーグ事件・東京高判平成25年4月24日労判1074号75頁)。有効例は例外であって常態ではありません。実行前に専門家に相談を。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-10-13)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。