従業員がカスハラでメンタル不調に——労災認定基準と会社の責任
カスハラによる精神障害の労災認定を解説。2023年9月1日改正適用の認定基準で具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」が追加。心理的負荷の強・中・弱の判断(治療を要する暴行や執拗な反復=強、単発=中)、会社が把握して対応しなければ「中」が「強」になる規定、安全配慮義務(労契法5条)と甲府地判平成30年11月13日労判1202号95頁、会社の対応記録の重要性まで。
2023年9月1日から、精神障害の労災認定基準(心理的負荷による精神障害の認定基準・令和5年9月1日改正適用)の具体的出来事に「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」が追加されました。会社にとっては、「会社が対応したか」自体が認定要素になった点が重要です。
1 精神障害労災の3要件
①対象精神障害(うつ病・適応障害等)の発病、②発病前おおむね6か月以内の業務による強い心理的負荷、③業務以外の心理的負荷・個体側要因によるものでないこと。主戦場は②です。
2 カスハラの心理的負荷の評価
- 強:治療を要する程度の暴行(単発でも特別な出来事級)/暴行等の反復・継続による執拗な被害/人格・人間性を否定する言動の執拗な反復/社会通念上許容範囲を超える威圧的言動の執拗な反復。
- 中:反復・継続していない暴行・人格否定言動・著しい迷惑行為。
- 弱:「中」に至らない言動。
3 会社が対応しないと「中」が「強」になる
「中」程度の迷惑行為でも、会社に相談した、または会社が把握していたのに適切な対応がなく改善されなかった場合、心理的負荷は「強」と評価されます。単発の暴言では労災に届かなくても、会社の放置が線を越えさせる——「知っていて何もしない」が最も高くつきます。
4 労災の先にある民事責任
労災給付は慰謝料等を填補しないため、被害従業員は安全配慮義務違反(労契法5条)に基づく損害賠償を別途請求できます。保護者の執拗な抗議への対応を怠り教員が罹患した事案で賠償を命じた例として甲府地判平成30年11月13日労判1202号95頁。担当変更・複数対応・対応打切り等をしないまま放置することがこのラインに乗ります。
5 経営者のチェックリスト
- 申告後の対応(担当変更・複数対応・打切り・警察)を記録に残す——労災調査でも民訴でも「会社が何をしたか」が見られる。
- 発病者が出たら受診・休養を優先し、労災申請を妨げない。
- 労災認定と会社の民事責任は別物。対応義務を尽くしたかが民事の争点になる。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-10-22)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。