復職前の「試し出勤」——賃金・労災・失敗したときの効果を、始める前に確認する
復職前の試し出勤(リハビリ出勤)を解説。法律上の制度ではなく会社ごとの任意制度であること、作業実態があれば賃金・最低賃金の問題が生じること(NHK名古屋放送局事件・名古屋高判平30.6.26労判1189号51頁)、片山組事件の復職判断基準との関係まで。
うつ病で10か月休職し、主治医から復職準備の許可が出た。会社は「まず試し出勤を1か月」と提案——この期間に給料は出るのか、通勤中のけがは労災か、「試したがダメ」ならどうなるのか。
法律の定めのない制度
リハビリ出勤(試し出勤・慣らし出勤)は会社の任意の制度で、法律上の規定はありません。厚労省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」もモデル(模擬出勤・通勤訓練・試し出勤)の紹介にとどまります。すべては会社の制度と個別合意次第——開始前の条件確認が生命線です。
最大の争点:賃金
基準はやはり「指揮命令下の労働」か(三菱重工長崎造船所事件・最一小判平成12年3月9日民集54巻3号801頁)です。
- 在席するだけ・読書のみ等の「出勤練習」:労働性が弱く、無給の設計も適法であり得ます。
- 業務をする(軽作業・補助作業でも):労働であり賃金請求権が発生、少なくとも最低賃金(最低賃金法4条)。「研修の一環だから無給」は通りません。
- 試し出勤中の作業に最低賃金相当の賃金請求を認めた裁判例があります(NHK名古屋放送局事件・名古屋高判平成30年6月26日労判1189号51頁)。
労災・通勤災害
実質的な労働を伴うリハビリ出勤中の災害は労災保険の対象です。純粋な通勤訓練(就労なし)中の事故は業務性・通勤災害性に争いの余地があります——「作業あり=賃金あり=労災あり」の明確な設計を求めるべき理由です。
休職期間満了との関係
- 試し出勤中に休職期間は進行するのか——満了=自動退職条項のある会社では雇用の存続に直結します。期間停止の合意を取れれば最善です。
- 「試し出勤失敗→期間満了退職」の流れでは、試し出勤の内容・負荷の適切さ(いきなりフル負荷等)が争点になります。復職可否の本体は、従前の職務または現実に配置可能な他の業務を遂行できるかです(片山組事件・最一小判平成10年4月9日労判736号15頁)。
開始前の書面確認リスト
- 期間・時間・業務内容(漸増プラン)
- 賃金の有無と金額(作業ありなら最低賃金以上)
- 期間中の身分(休職継続か復職扱いか)・休職期間進行の有無
- 労災・通勤災害の扱い、交通費
- 評価基準(誰がどの基準で復職可否を判断するか)・主治医/産業医意見の位置づけ
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-06-16)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。