退去時の原状回復——壁紙の経年劣化を借主に請求してはいけない
2026-05-29
5秒でわかる結論
壁紙の経年劣化や家具の設置跡は貸主負担——民法621条で明文化。借主に請求できるのは通常損耗を超える汚損・毀損だけ。敷金精算の実務。
借主が退去。壁紙も古くなったし床にも使用感があるから敷金から修繕費を差し引こう——日本の賃貸実務で最も多い紛争類型であり、法律の答えは多くの大家にとって意外なものです。
大原則:通常損耗は貸主負担
判例理論と実務が長年採用してきた「原状回復3原則」は、2020年施行の民法改正で明文化されました(民法621条)。
- 通常の使用による損耗・経年変化は借主の原状回復義務の対象外=貸主負担。例:家具の設置跡、日照による壁紙の変色、冷蔵庫裏の電気ヤケ。
- 通常の使用を超える汚損・毀損は借主負担。例:喫煙によるヤニ・臭い、ペットの傷、搬出時にぶつけた建具の破損、清掃を怠ったことによるカビ。
- 借主に帰責事由のない損傷(自然災害等)は借主負担なし(民法621条ただし書)。
理由は単純で、通常損耗の回復費用は毎月の賃料にすでに織り込まれているからです。
敷金のルールも明文化
民法622条の2により、敷金は借主の債務(滞納賃料・損害賠償等)を担保する金銭で、借主負担分を控除した残額は明渡し後に返還しなければなりません。
実務対応
- 入居時・退去時の写真+現況確認書(双方署名)。紛争時の最強の証拠です。
- 通常損耗を借主負担とするには明確な特約が必要:抽象的な「原状回復して返還する」条項では足りず、負担範囲・内容を具体的に明示した合意が必要です(それでも範囲が過大なら無効となり得ます)。
- 精算書は具体的に:箇所・内容・金額・負担根拠を項目ごとに。「クリーニング一式」では争われたときに立ちません。
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が実務・裁判所の参照基準です。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-05-29)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。