役員の競業避止——在任中は法定義務、退任後は契約がなければ義務なし
2025-11-06
5秒でわかる結論
役員の競業避止を解説。在任中は会社法356条1項1号・365条の競業取引規制と423条2項の損害額推定、退任後は原則自由のため契約・誓約書が必要なこと、利益相反取引(356条1項2号3号)との違いまで。
「専務が独立して同業の会社を作り、顧客を持っていった」——在任中と退任後では、追及できる根拠がまったく違います。まず区別しましょう。
在任中:法定の競業規制
- 取締役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をするには、株主総会(取締役会設置会社では取締役会)に重要な事実を開示して承認を得る必要があります(会社法356条1項1号・365条)。
- 違反した場合:任務懈怠の損害賠償(423条1項)に加え、その取引で得た利益の額が会社の損害額と推定されます(423条2項)——立証負担が大幅に軽減されます。
- 背後にあるのは善管注意義務・忠実義務(330条・355条)です。準備行為(在任中の競合会社設立・部下の引き抜き)も義務違反となり得ます。
退任後:契約がなければ原則自由
- 退任後の競業は職業選択の自由の世界です。法定義務はありません(営業秘密の不正使用などは別論)。
- 拘束したければ競業避止契約(就任時または退任時)が必要です。有効性は合理性で審査されます:①保護利益(営業秘密・顧客関係)②期間(1〜2年が相場)③地域・業務範囲の限定④代償措置(退職慰労金の上乗せなど)。無代償・無限定の条項が否定された例は多数あります。
- 退任時の誓約書+退職慰労金の支給を遵守と連動させる(違反時の返還条項)のが実務上有効な設計です。
あわせて整理:利益相反取引
役員と会社の直接取引・会社による役員の債務保証など(356条1項2号3号)も承認が必要です。中小企業でよくある「社長から会社への貸付・会社から社長への貸付」「社長所有の不動産を会社に賃貸」はすべて該当します——総会議事録・取締役会議事録に承認の記録を残すこと。税務調査・紛争時に必ず求められます。
実務チェックリスト
- 役員就任時:競業避止・秘密保持の契約締結(退任後条項を含む)。
- 兼任・副業のある役員:競業該当性を毎年棚卸し。
- 承認記録(議事録)の整備。
- 退任時:誓約書+慰労金設計+引継ぎ・資料返還の確認。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2025-11-06)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。