取締役の善管注意義務と経営判断原則——失敗した投資は賠償ものか
2026-04-18
5秒でわかる結論
取締役の善管注意義務を解説。会社法330条・民法644条・忠実義務355条、任務懈怠責任(423条)と第三者責任(429条)、経営判断原則(アパマンショップ事件・最一小判平成22年7月15日判時2091号90頁)、責任限定契約・補償契約・D&O保険まで。
「投資が失敗し、株主から個人で訴えると言われた」——経営にはリスクがつきものです。法律は取締役に常に勝つことを求めてはいませんが、まともな手順を求めています。
義務の構造
- 善管注意義務(会社法330条→民法644条):その地位・状況で通常期待される注意をもって職務を処理する義務。
- 忠実義務(355条):会社の利益のため忠実に職務を執行する義務(判例上は善管注意義務と同質)。
- 違反=任務懈怠→会社への損害賠償(423条1項)。株主は代表訴訟を提起できます(847条)。
- 第三者(取引先・労働者など)に対しては、職務につき悪意または重大な過失があるとき賠償責任(429条1項)——中小企業の実務で最も使われる条文です(倒産時に取引先が社長個人に請求する定番)。
経営判断の原則
最一小判平成22年7月15日判時2091号90頁(アパマンショップ事件)は、子会社株式の高値買取りが追及された事案で、①判断の前提となった事実の認識に重要かつ不注意な誤りがなく、②判断の過程・内容が経営者の立場から著しく不合理でないことを基準に責任を否定しました。ポイントは——
- 裁判所は経営の当否を事後採点しない——審査されるのは手順と過程です。
- 裏を返せば、調査なし・検討なし・専門家意見なしの即断は、失敗したとき守ってもらえません。
責任が肯定される典型
- 法令違反:法令遵守自体が善管注意義務の内容——「会社のための違法」でも免責されません。
- 利益相反の混入:自己・親族の利益を優先した場合(このとき経営判断原則は適用されません)。
- 監視義務違反:他の取締役・従業員の不正の放置(内部統制の欠如)。
- 無謀な放漫経営・回収見込みのない融資の継続。
防衛策
- 重要な決定の前に:資料収集・試算・(金額が大きければ)外部専門家の意見→議事録に検討過程を残す。
- 責任限定契約(427条・非業務執行取締役)・会社補償契約(430条の2)・役員賠償責任保険(430条の3)の整備。
- 定款での責任一部免除規定(426条)。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-04-18)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。