【古典判例】「グルーミーな印象」では内定取消しはできない——大日本印刷事件(最二小判昭和54年7月20日民集33巻5号582頁)
2026-06-01
5秒でわかる結論
「グルーミーな印象」を理由とする内定取消しは解約権の濫用。大日本印刷事件(最二小判昭和54年7月20日民集33巻5号582頁)——内定=始期付解約権留保付労働契約、取消事由は内定当時知り得なかった事実に限る。
「まだ内定で入社前だから、取消しは自由だろう」——試用期間に次いで多い誤解です。「内定取消し=解雇と同等の審査」を確立したのが大日本印刷事件(最二小判昭和54年7月20日民集33巻5号582頁・労判323号19頁)です。
事案の概要
大学生Xが大日本印刷の新卒採用に応募し、7月に電報で採用内定通知を受け、会社の求めに応じて誓約書(卒業不能・健康悪化・虚偽申告等の取消事由を記載)を提出。Xは他社の採用を辞退しました。ところが翌年2月、会社は理由を示さず内定取消しを通知。訴訟で判明した実際の理由は「Xがグルーミー(陰気)な印象である」というもの——しかもその印象は採用選考当時から会社が認識していた事実でした。
最高裁の判断
- 内定=労働契約の成立:会社の募集は申込みの誘引、学生の応募が契約の申込み、内定通知が承諾にあたり、この時点で始期付解約権留保付労働契約が成立する。
- 取消しの限界:内定取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的で社会通念上相当なものに限られる。
- 結論:「グルーミーな印象」は選考時から分かっていた事実であり、会社はその段階で打ち消す材料の有無を調査・判断すべきだった。それを知りながら内定を出し、後から同じ理由で取り消すのは解約権の濫用——取消しは無効で、Xの従業員たる地位が確認されました。
経営者への教訓
- 採用時に判断すべきことは採用時に判断し切る。面接時に知っていた(知り得た)事実を内定後の取消理由にすることはできない。
- 使える取消事由は、卒業不能・提出書類の重大な虚偽の発覚・就労不能なほどの健康悪化など「後から発生・判明した事実」。誓約書に取消事由を明記しておくのが実務の基本。
- この法理は中途採用にも及ぶ。転職者の内定取消しを整理解雇の枠組みで厳格に審査した例があります(インフォミックス事件・東京地決平成9年10月31日労判726号37頁)。オファーレター交付後の撤回は日本では高リスクです。
- 法的に通る場合でも、新卒の内定取消しは企業名公表の対象になり得ます(職業安定法施行規則17条の4)。まずは話し合いによる解決を。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-06-01)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。