【裁判例紹介】内々定の取消し——労働契約は不成立でも損害賠償——コーセーアールイー事件(福岡高判平成23年3月10日労判1020号82頁)
2026-06-08
5秒でわかる結論
内々定の取消しは解雇ではないが無責任でもない。コーセーアールイー事件(福岡高判平成23年3月10日労判1020号82頁)——労働契約は不成立でも、内定式直前の取消しは信義則違反として損害賠償。
日本の新卒採用には「内々定」→「内定」(通常10月1日の内定式)という二段階の慣行があります。では内々定段階の取消しは法的にどう扱われるのか。これを整理したのがコーセーアールイー(第2)事件(福岡高判平成23年3月10日労判1020号82頁)です。
事案の概要
不動産会社Yは大学生Xに内々定を通知し、10月1日に内定式を開いて正式な内定通知書を交付する予定でした。Xは入社準備を進めていましたが、経営環境の悪化を受け、Yは内定式の数日前に突然内々定の取消しを通知。Xは労働契約の成立(=取消しは無効な解雇)を主張し、あわせて損害賠償を請求しました。
裁判所の判断
- 内々定≠内定:本件では正式な内定日(10月1日)が明示され、双方とも正式な契約成立は内定式の時と認識していた——よって内々定段階では労働契約は成立しておらず、大日本印刷事件の解約権濫用法理は適用されない。地位確認請求は棄却。
- ただし無責任ではない:内定式直前、Xの入社への期待が高度に具体化した時点での突然の取消しは、労働契約締結過程における信義則に違反し、Xの期待利益を侵害する——不法行為として慰謝料等の損害賠償が命じられました。
経営者への教訓
- 内々定段階の取消しは「解雇」という最難関の審査こそ受けないが、正式内定に近づくほど・相手の信頼が具体化するほど賠償責任は重くなる。「契約前だから自由」は半分しか正しくない。
- 内々定を出す前に採用人数の経営判断を固めること。経営悪化による取消しは、時期が遅いほど弁解が難しくなる。
- 逆に正式内定後は大日本印刷事件の世界:取消し=解雇と同等の審査(当サイト「内定取消し」の記事参照)。内々定→内定の線引き管理が新卒採用実務の要点。
- 中途採用では、口頭オファー+前職退職という経過があると契約成立がより早く認定され得る。「正式採用は●●を条件とする」と書面で明確にしておくのが自衛策。
※ 本記事は一般的な法律情報であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。実際の案件については必ず弁護士にご相談ください。本記事の内容は記事作成日(2026-06-08)時点の法令・判例に基づくものであり、その後の法改正等により変わることがあります。